スラッグス 「評価 A」
舞台はごくごく平凡な田舎町。下水道のドブさらいを生業としている男が、依頼によってとある民家の排水溝を調べることとなった。見たところ何かが詰まっている様子だったので、スコップを使って掻き出してみる男。すると大変なことに、中から全長10cmはあるナメクジが大量に出てきたのである。地下に有毒廃棄物が埋められていたこの町は、人々の知らぬ間にナメクジの楽園と化していたのだ…。
「人蛇大戦 蛇」や「黒い絨毯」など、本物の生き物がウジャウジャ出演するパニック映画は数あれど、気色悪さという点では本作とゴカイ大発生映画「スクワーム」が双璧を成しているとは良く言われる話である。「スクワーム」の方を私は幼少の頃に観て軽くトラウマになったものだが、それに匹敵する作品があるということで長らく観たいと思い続けていたところ、漸く機会に恵まれてこの映画を観賞することができた。そのため観れることが分かった時の私の嬉しさといったら例えようの無いものだったのだが、そんな感慨深さも映画を観た途端に呆気なく吹っ飛んでしまった。原因は言うまでも無く、大量発生したナメクジ達の極上のグロテスクさである。普通のナメクジでさえ、異質な容貌と体を覆う粘液のおかげで敬遠する人が多いというのに、それのデカい奴が床を埋め尽くし、その上を役者が転げ回るのだ。これが気持ち悪くないはずが無い。日本のSFドラマ「緊急指令10−4 10−10」にも人食いナメクジが出てくるエピソードはあったが、全て本物を使用している本作と比べると月とスッポンである。
しかもこの映画、それに加えて一層嫌悪感をもたらすための見せ方もしっかり心得ているから鬼に金棒だ。花壇の中や草木の葉など、我々がよくナメクジを目撃して悲鳴を上げるシチュエーションをリアルに再現してあるのは勿論のこと、農家の倉庫にあったキャベツの箱にナメクジがびっしり張り付いていたり、「スクワーム」のシャワーの蛇口からゴカイが出てくるカット宜しく、洗面所の蛇口からズルリと落ちてきたナメクジが不気味に蠢いていたりと、思わず「ギャー!」と叫びたくなるようなシーンのオンパレード。そしてこれらグロテスクな場面群の頂点に位置するのが、町に住む会社員の家に一匹のナメクジが現れた際の、一連の顛末である。台所に現れたナメクジは、取り敢えず手頃な食料としてキャベツの中に入り込んだ。ところが家の奥さんはそれに気づかずキャベツを手に取ると、そのまま切り刻んでしまったのである。この時映し出されるキャベツの断面には一緒に切られたナメクジの無残な姿もしっかり見え、これだけでもう気持ち悪いことこの上ないのだが、話はそれだけでは終わらない。なんと奥さんはキャベツを切り終えた後もナメクジの存在に気づくことなく、そのまま野菜サラダにして食卓に出してしまうのだ。当然サラダの中にはナメクジの輪切りが入っているのだが、家の主人なんかは「塩味の強いアンチョビだなあ」と完全に勘違いをして、それを食べてしまった。それから数日後、急に腹の具合が悪くなる主人。しかし大事な取引の仕事があったので、こみ上げる腹痛を我慢して取引先の人間がいるレストランへと向かった。何とか取引も成功し、後は楽しく食事をするだけ…と思ったその時、彼は大量の血を吐いてもがき出した。突然のことにビックリする取引先の人間。先日食べられたナメクジは住血吸虫という名の寄生虫を持っており、それが彼の体内を根城として見る見るうちに数を増やしていたのだ。今や会社員の顔を膨張させるまでに増えた寄生虫は、彼の眼球を勢い良く押し出して体の外にまで溢れ出てきた…。この場面はサナダ虫のような寄生虫の蠢き具合といい、男の血の吐き方の異常具合といい、もたらしてくれる嫌悪感の度合いは半端じゃないものがある。取り敢えず軟らかい物や野菜サラダを食べながらは観ないようにしておこう。
町を活性化させるためナメクジ退治に消極的な市長…という実にありふれた構図をしている上、ナメクジを始末するためとは言え明らかに一般市民を大量に殺しているラストなど、話にすっきりしない箇所は多いものの、本作で幾つも観られる衝撃シーンの前にはそれもさしたる問題とは思えない。まさしく「気持ち悪い」の一言に尽きる怪作である。
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