シージャック アキレ・ラウロ号恐怖の航海 「評価 A」
イタリアからエジプトを周回する豪華客船「アキレ・ラウロ号」が出航した。ところがこの船にはパレスチナ過激派の四人の若者達が彼らの親玉と共に乗っていたのである。親玉の命令で、エジプトに滞在していたアキレ・ラウロ号を乗っ取る四人組。船はシリアへと進路を変え、イタリアにこう声明発表したのだ。「収容されているパレスチナ人27人の釈放を決定しなければ、一時間ごとに人質を一人ずつ殺す」と。そこでイタリア大統領はシリア政府と対談をする。「我々シリア政府は過激派テロリストと関係無い」と言い張る政府に対し、イタリア側は「ならば、その表明を見せてください」と要求したのだ。言った以上はテロリストを除けざるを得なくなったシリア政府は、アキレ・ラウロ号の入国を拒否することになったのである。その事を知った四人は激怒し、既にアメリカ人の乗客を殺したと政府に宣言したのだ。
一方イスラム側はと言うと、「過激派のせいで我々のことを誤解されてしまう」と考えたアラファト議長が、四人の親玉と近い存在にある男アバスに騒動の収拾を依頼した。そこでアバスはアキレ・ラウロ号に向かい「乗客を誰も殺していないことにすればおまえ達は無罪にできる」という事で四人を説得して、四人にアメリカ人を殺した事実を隠蔽させた後で彼らを投降させたのであった。
しかし、そこにアメリカ政府が動き出した。「アメリカ人が殺された疑いがある以上、我々も動かずにはいられない」というわけだ。アメリカ人を殺していたという事実は瞬く間に発覚したのだが、逮捕される直前に四人はアバスと共にエジプトへ逃走を図っていたのだ。そこでアメリカ政府は自慢の空軍で彼らが逃げた航空機を捕獲して、その航空機をイタリアの空港に強制着陸させたのである。そのことを「非道だ」とイスラム側の人間は非難したのだが、そんな事は耳にも届かないアメリカ軍は、さっそく彼らを殺人罪で逮捕しようとした。だが、そこへイタリア軍が現れた。「イタリアの豪華客船で起きた事件なのだから、我々の管轄だ」という理屈である。こうしてアメリカとイタリアの、乗客の安全を二の次とした睨み合いが発生してしまった…。
実際におきた事件を取り扱っているので、本作は何と言っても話の重厚さが違う。アメリカ・イタリア・シリア・イスラエル・エジプトの5カ国の対立によりシージャック事件はどんどんとややこしくなっていき、最後はアバスの逃亡というかたちで終わってしまうのだが、本作を観ていると当時の情勢がいかに緊迫したものであったのかがよく分かる。そして対立は現在に至っているのだが、その中には彼ら四人のようなイスラム側に躍らされた人間もいることが物凄く身にしみる。
これだけの難しいテーマで当時の実際の情勢を非常に分かりやすく伝えてくれる本作は、まさに力作と言える出来であった。
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