シックスティナイン               「評価 A」
タイ映画だ。本作はあのムエタイとハヌマーン様の国、タイが製作したサスペンス映画である。しかし本作、さすがはタイが製作しことだけあって、普通のサスペンス映画に終わっていない。主人公の身にかかる不幸が凄過ぎて、サスペンスというより、ほとんどブラックコメディ映画の域にまで達しているのだ! やっぱり、あの鈴木清順監督が「傑作」と評した作品はひと味違うものだ。と、私は本作を観ながら思わず頷いてしまった。
主人公のトゥムはごく普通のOLだったが、ある日不景気のあおりを受けて会社をリストラされてしまった。そこで、荷物をたたんでアパートの「6」号室に帰ったトゥムだったが、次の朝、なんと部屋の玄関先に100万バーツの大金が入った段ボールが置かれていた。訳が分からぬまま段ボールを部屋にしまうトゥム。だが実は、彼女の玄関のドアにある「6」の文字がひっくり返って「9」になっていたため、「9」号室の住人と取り引きをしていたムエタイヤクザ(そう、ムエタイを使うヤクザ!)が100万バーツの段ボールを置く部屋を間違えていただけだったのだ! それに気がついたムエタイヤクザの2人組がトゥムの部屋へと押し入ったのだが、命を奪われると察したトゥムはその1人を撲殺し、それに怒ったもう1人もナイフで刺殺してしまった。思わず殺人をしてしまった事で慌てるトゥム。死体を草の箱の中へ隠した彼女は、偽造パスポートを作って高飛びをする事を決意する。ところが、運の悪いことにムエタイヤクザの次なる刺客を始めとして、彼女の部屋には次々と来客が現れて…。
序盤はやや演出のトロさが気になる本作。だが部屋の死体が増えていくに連れて話が加速していくので、最終的に殆ど気にならなくなっている。100万バーツを奪われたムエタイヤクザの組織。100万バーツを受け取っていないことでヤクザに腹を立てる「9」号室の住人とその配下。最近のトゥムの不審な行動を怪しむ近所の老人。トゥムが夫の警官と不倫していると誤解する(警官は既に死体となっていた)近所のお騒がせオバサン。100万バーツの事なんか全く知らずに、恋人との恋愛物語に一直線のトゥムの友人。彼ら脇の登場人物が勝手に巻き起こした珍騒動が、次第にトゥムを絶望の底へ落としていく様は、本当に観ていて大爆笑もの。モンティ・パイソンやタランティーノ映画辺りが大好きな人ならば、ぜひ観ておきたい作品である。

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