江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間         「評価 B」
大正時代の城北精神病院に、ある外科医の男が入院していた。精神病院を脱走した彼は記憶の片隅に残る謎の子守歌を唄う一人の女性と出会ったのをきっかけに、自分の出生の謎を探るため僅かな記憶を頼りに日本海へと旅立った。だが旅先の新聞で彼が見たのは、彼と瓜二つの男が心臓発作で死んだという記事であった。その男を不審に思った彼は男の死体と入れ替わり、男の家庭に入り込む。ところがそれからというもの、風呂場に蛇が発生したり、妻が謎の変死を遂げたり、家に謎の奇形児達が姿を現したりと、家には奇怪な事件が次々と発生する。彼は家の大旦那が事件に関係があると考え、家の人間らと共に大旦那の住む離島へ向かったのだが、なんと手に水掻きを持っている大旦那は身障者が馬鹿にされない世界を築こうと、島民全員が奇形児という「奇形児の楽園」を離島に築いていたのである。しかもその大旦那は家で起きた奇怪な事件だけでなく、男の出生の謎にも大きく関わる人物だったのだ…。
とこう書いてみると随分と無茶苦茶な筋書だが、それもそのはず。なんと本作は様々な江戸川乱歩作品の断片を拝借して、それを繋げることで一本の映画を作ってしまったという珍作なのだ。それで「江戸川乱歩全集」という副題を堂々と付けているのだから恐ろしい。だがいくら話の内容が滅茶苦茶でも、江戸川乱歩的猟奇世界がまんま映像化されている本作の世界観は注目すべきところだ。冒頭の精神病院内で狂った患者が暴れ回るシーンを始めとして、男が入り込んだ家の中で展開するドロドロな人間関係や映画後半の舞台となる奇形児の楽園やラストの「お母さぁぁぁぁん!」まで、とても他の日本映画ではお目にかかれないような狂気と憎悪のオンパレード。特に楽園の檻に入れられて餌の草を貪り喰う奇形児達なんかは、二度と映像化できないようなやばさに満ちている。あまりのやばさが故に劇場公開されているのを観るしか無いんだが、精神的に訴えてくる恐怖映画が好きな人間ならば本作はわざわざ劇場に足を運んでまでも観る価値のある作品である。

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