快盗ブラック・タイガー             「評価 S」
タイ国内を荒らし回る快盗団、その中に本作の主人公ブラック・タイガーはいた。彼は復讐のために快盗団に入ってからというもの、凄まじい射撃の腕で瞬く間に快盗団のナンバー2にまで上り詰めたのだが、実は彼には大きな秘密があった。なんと彼は快盗団の宿敵である知事の娘のラムプイと幼い頃からの仲で、彼女と駆け落ちすべく約束の地「サーラー・ロウ・ナン」で待ち合わせをしていたのである。ところが僅かな行き違いによって二人は会うことが出来ず、ラムプイはエリート警部のガムヂョンと結婚させられることになってしまった。しかもガムヂョンは快盗団を壊滅させるために都市から派遣された警部で、彼は部下を率いてブラック・タイガーのいる快盗団アジトの襲撃に向かったのだ…。
かつて「シックスティナイン」であの鈴木清順を驚かせたタイ映画だが、なんと今度の作品は鈴木清順ばりに凄まじい映像センスで描く驚愕の西部劇である。鮮やかな原色で塗りたくられた建物や衣装、かつて北京がやったみたいに緑のペンキを塗ったようにしか見えない芝生、必要以上に赤い川など、とにかく恐怖をおぼえるほどの異世界がこの映画の中では広がっているのだ。しかも話の内容がサム・ペキンパーばりの西部劇なので、そんな世界の登場人物の体からは必要以上に赤い血がこれまた必要以上に噴き出す。それに加えて10年前の回想シーンではフィルムをわざと色褪せさせているばかりではなく、なんと昔の記録映画みたいにフィルムを早回しして登場人物の動きを速くさせるという徹底ぶり。こんな観るものを唖然とさせるような凄まじい演出が、本作ではほぼ全編にわたって見られるのだ。
だがこういう映画の場合、話の内容がさっぱりならば単なるわけの分からない映画に終わってしまうものである。ところが本作の内容はまるでインド映画の如く、簡潔で分かりやすい悲恋話となっている。そのため作中で展開される脅威の映像美にじっくりと見入ることができるのだ。
快盗団のボスがやたらあっけなかったり、ハードな西部劇の割にアクションシーンがやや少なめだったりと多少不満はあるが、そういった欠点を差し引いても本作の素晴らしさは揺るぎない。2時間弱の上映時間が瞬く間に過ぎ去っていく、なんとも恐ろしい西部劇であった。

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