腹腹時計 「評価 C」
自主映画界。それは決して劇場では公開できないような、怪しいムードに満ち溢れた世界である。本作の監督(兼主演)である渡辺文樹は日本を渡り歩きながら映画を撮り続ける(と同時に多額の借金を重ねつづける)、言わばこの世界における有名人で、本作以外にも日本人の村社会にスポットを当てた「ザザンボ」などの作品がある。
そしてこの映画は、30年くらい前に実際に起きた「天皇暗殺未遂事件」をモチーフとしている。天皇暗殺を企てるテロリスト(その名も渡辺文樹! 「ザザンボ」もそうだが、この監督は自分の映画に実名で主演しているのだ)と彼の主張に賛同する少女、そして彼らの暗殺計画を阻止しようとする刑事(少女の父親)と韓国の特殊警察の対立を描いたものだ。
いきなり冒頭で「天皇制に反対する者は次々と処刑されていった…」というナレーションと共に、次々と惨殺されていく在日韓国人達の姿がピックアップされ、初めから飛ばしまくりな展開で本作は幕を開ける。そして次に、後にテロリストとなる渡辺文樹が韓国にやって来るシーンに変わり(韓国の山中を走るバスはどう見ても日本の観光会社のもの)、山中のログハウスで韓国人の集団と「日本の戦争責任」について話し合いを始める。この話し合いが無駄に長くて、明らかに監督の主張を盛り込んであるのが見え見えだ。しかも韓国人達は時々目線を一定の方向に変えて喋り出す(もしかしてカンペがあるのか…!?)。いかにも「自主映画」らしい、怪しさ抜群の場面である。
ところが、「日本の犬と化した(監督曰く)」韓国の警察によってログハウスが襲撃され、辛うじて逃げのびた渡辺文樹を除く、全員が射殺されてしまった。そこで同胞を失った憎しみから渡辺文樹はテロリストとなり、日本へと帰ってくる。日本の小さな浜辺で、同じく天皇制に反対する少女(彼女が歩道橋を走り回るシーンに流れる音楽は、まさに精神を破壊してしまうような雑音以外の何物でもないような代物)と知り合った渡辺は、彼女と共に天皇暗殺計画を始める。
その後、何に使ったのかよく分からないコンピューターを購入したり、ニトロを本格的に作ってみたり、アラブ系の男(頭にターバンを巻いていて、実にステレオタイプ)から武器を購入したりと、「テロリスト暮らし」を満喫する2人。だが一方で、少女の父親の警官(密かに天皇を崇拝している)は、娘が左翼に回ったことに頭を悩ませていたのである。
そんなこんなで、計画開始の時が訪れる。天皇の乗る特別列車にニトロを積んだ列車をぶつけ、天皇もろとも爆破してしまおうという計画だ。町中でマシンガンを装備した、西部警察まがいの警官隊を振り切り、列車に乗り込む渡辺。だが、彼の計画を阻止しようとした警官の1人が、なんと列車の通る踏切に幼稚園バスを置いたのだ(おまえは悪の組織の怪人か)! 当然園児は何も知らないようなはしゃぎ顔。どうやら彼ら警官にとっては、天皇を守るためなら数十人の子供の命なんてどうでもいいらしい(というか、園児を下ろせよ!)。そんな中、韓国の特殊警察が渡辺の列車に乗り込んだ! 果たして、勝負の行方は!? そして、天皇暗殺計画の顛末は!?
…と、いろんな意味で「凄い自主映画」だった。特に全上映時間の3分の1を占めるほどの、監督の「自己主張シーン」が圧巻。内容的には左翼と右翼の両方を敵に回したようなものだが、皆さんも期会があればぜひ観ることをオススメする。そしてこの怪しさ抜群な世界の恐ろしさを知ってもらいたい。
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