アラクノフォビア             「評価 C」
ある医者とその家族が、田舎の小さな街に引っ越してきた。そこで病院を開こうとした医者だったが、既にこの街には町民らから信頼を置かれている老齢の町医者がおり、彼はどうにも仕事をしずらい状況に置かれていたのである。そんなある日のこと、一人の老人が運動中に原因不明の発作を起こし、死亡するという事件が起こった。続けて同様の事件が街で続発し、ただごとではないと思った医者は原因追求のために奔走する。だが実は、一連の事件はベネズエラからやってきた新種の蜘蛛の仕業であり、その蜘蛛は医者の家の倉庫に巨大な巣を築いていたのである。
アラクノフォビアとは、蜘蛛恐怖症のことである。このタイトルの通り、本作の主人公は幼い頃のトラウマが原因で蜘蛛恐怖症となっており、蜘蛛を見ると震えずにはいられない体質になっている。しかし主人公が蜘蛛を怖がっているシーンはというと、画面が彼の気持ちを表して歪んだりぼやけたりするようなことはなく、単に怯える顔が映し出されるだけだ。これでは毒グモを恐れているだけの一般人との差が感じられず、アラクノフォビアな人間の描写については不徹底であると言える。
しかし、本作のタイトルには実はもう一つの側面も隠されていたのだ。大量発生系の蜘蛛映画である本作は、様々な場所に潜んでいる蜘蛛を拝むことができる。ヘルメットの内側、スリッパのつま先部分、ポップコーンの入ったボウルの上…と、日常的に使用している物に本作の蜘蛛は隠れており、それらの物を普段通り何気なく使った人々が、蜘蛛に噛まれて命を落として行くのだ。
本作で描かれているのは表面だけ平穏な日常であり、一枚剥がせば見えてくる死の恐怖である。生活の表舞台に姿を見せないだけで、裏では蜘蛛が自分を狙っている。この様子は本作の主人公のみならず何気ない日常を過ごしている観客達にとっても悪夢そのものであり、ともすれば観客自身が蜘蛛を恐れるような事態になるかもしれない。だからこそ本作のタイトルは「アラクノフォビア」なのである。
最後に、本作の蜘蛛がベネズエラから主人公一家の住む町へ移住する過程が非常に面白いので紹介しておこう。ベネズエラでカメラマンを噛み殺した蜘蛛は、その死体に潜り込み、一緒に棺桶に入れられる。棺桶はカメラマンの故郷であるアメリカまで輸送され、蓋が開けられた際に蜘蛛は外へと飛び出す。その直後に蜘蛛はカラスに捕まえられて空を飛んでいくのだが、カラスを噛み殺して地面に着地。そこが主人公一家が住む町だったのである。
…偶然とは、この事を言うのだろう。

GO TO TOP!!